小児の心身症
小児心身症について
心身症とは、発症や経過に「心理・社会的因子」が影響している身体の病気を指します。特に脳と神経が発達段階にある子どもは、感情をうまく認識・表現できなかったり、対応できなかったりすることで、身体に症状が現れることがあります。
まずは、お子さまが困っている身体の症状をしっかりと診断し、適切に治療を行うことが大切です。その上で、症状に影響している心理的・社会的な要因があるかを一緒に探っていくことが必要です。
お子さまの心身症についてご心配やお悩みのある方は、どうぞお気軽にご相談ください。
夜尿症(おねしょ)
夜尿症とは、5歳を過ぎても、夜中に寝ている間に無意識でおしっこを漏らしてしまう状態を指します。原因としては、おしっこを濃縮して量を減らすホルモンが十分に分泌されていないことや、夜に膀胱が十分に大きくならない自律神経の働きが弱いこと、睡眠の質の問題で朝起きにくいことなどが考えられます。
(症状)
ほとんどのお子さんは生まれた時から夜尿が続いている一次性夜尿症ですが、6か月以上夜尿がなかったのに再び夜尿が始まる二次性夜尿の場合は、何か原因がある可能性があるため、詳しい検査が必要です。
また、昼間に排尿回数が極端に多い、あるいは少ない、昼間に尿を漏らす、残尿感がある、尿がうまく出ないなどの症状がある場合も注意が必要です。
(対応方法)
夜尿症は、早めに対策を行うことで、自尊心の低下や学校での集団宿泊行事への不参加を防ぐことができます。夜尿の日数が減るだけでもお子さんの精神的な安定に繋がるため、まずは次の生活習慣を見直すことが大切です。
- 水分の調整: 就寝2時間前からはできるだけ水分を控えましょう。
- 寝る前のトイレ: 寝る前には必ずトイレに行く習慣をつけます。
- 規則正しい睡眠: 睡眠リズムを整え、質の高い睡眠を心がけます。
- 便秘の治療: 便秘がある場合は、その治療を行います。
これらの方法で改善が見られない場合は、アラーム療法や抗利尿ホルモン製剤の使用を検討します。アラーム療法では、寝ている間に夜尿を感知する機械が作動し、アラームで本人が夜尿に気づくことで、徐々に膀胱の容量を大きくする効果があります。一方、抗利尿ホルモン製剤は、夜間の尿量を減らすことで夜尿を防ぎ、成功体験を積み重ねていく治療です。
起立性調節障害
起立性調節障害は、体が成長する過程で自律神経の働きが悪くなり、立ち上がった時に身体や脳への血流が十分に届かなくなる病気です。これにより、頭痛、立ちくらみ、だるさ、気分の悪さなどの症状が現れます。特に朝に症状が強く、午後になると回復することが多いため、時に「怠けている」と誤解されることがあります。小学校高学年から高校生に多く見られ、中高生のおよそ1~2割がこの症状を経験していると言われています。
(症状)
以下の症状が見られる場合、起立性調節障害が原因かもしれません。
- 立ちくらみやめまいが頻繁に起こる
- 立ち続けると気分が悪くなり、ひどいと倒れることもある
- 入浴時や嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
- 少し動くと動悸や息切れがする
- 朝なかなか起きられず、午前中に調子が悪い
- 顔色が青白くなる
- 食欲不振がある
- 時折、臍疝痛(へそのあたりの痛み)を訴える
- 倦怠感や疲れやすさを感じる
- 頭痛がある
- 乗り物に酔いやすい
(対応方法)
起立性調節障害の治療目標は、「必ず良くなるけれど、時間がかかることを理解し、焦らずに治療に取り組む」ことです。症状と上手く付き合いながら、できることを増やしていくことが大切です。
日常生活の工夫で症状を和らげることができます。以下の方法を取り入れてみましょう。
- 早寝早起きを心がけ、規則正しい生活リズムを整える
- 立ち上がる時は、頭を少し下げながらゆっくり立つ
- 長時間立ち続けないようにし、1~2分以上立つ場合は足を交差させる
- 毎日1.5~2リットルの水分を摂取し、塩分は普段の食事に加えて3g程度を目安に摂る
- 筋力低下を防ぐために、毎日30分程度の散歩や軽い運動を行う
これらの工夫に加え、必要に応じて血圧や脈拍を調整する薬を使用します。起立性調節障害には心理的な要因や環境の影響もあるため、心理的なサポートや環境の調整も重要です。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群は、大腸の運動機能の異常による下痢や便秘、そして腸の知覚が敏感になることで引き起こされる腹痛が特徴です。
(症状)
腹痛が排便に関連し、腹痛の時に排便の頻度や便の形状が変化することがあり、これが2か月以上、少なくとも週1回以上続く場合に診断されます。
過敏性腸症候群の症状は、大きく4つのタイプに分類されます。
- 下痢型:主に下痢の症状が出るタイプ
- 便秘型:主に便秘が見られるタイプ
- 混合型:下痢と便秘の両方の症状が交互に現れるタイプ
- 分類不能型:どのタイプにも当てはまらないケース
(対応方法)
治療は段階的に行われます。まずは整腸薬やポリカルボフィルカルシウムといった薬剤を使って症状を軽減します。その後、食事内容を見直し、症状を悪化させる要因を特定することが大切です。
効果的な食事管理には、以下のポイントがあります:
- 可溶性食物繊維:芋類、寒天などを取り入れる
- 低FODMAP食品:リンゴ、ナシ、モモ、スイカなどの果物を避け、バナナやオレンジ、ブドウに変更する
- 低グルテン食:パンやパスタ、うどんなどの代わりに米を摂る
また、高脂肪食品やカフェイン、香辛料、乳化剤などの添加物を控えることも効果的です。症状が安定したら、薬を中止し、食事制限も徐々に緩めていきます。
過敏性腸症候群には心理的・社会的な要因も影響しているため、心理的ケアや環境の調整も重要です。
機能性ディスペプシア(胃の運動機能障害)
機能性ディスペプシアは、胃の運動機能がうまく働かないことによる「みぞおちの膨満感」や「少し食べただけでお腹がいっぱいになる感覚」と、胃が敏感になることで感じる「みぞおちの痛み」や「灼熱感」が特徴です。排便に関連しない上腹部(へその上)の痛みや不快感が2か月以上、少なくとも週1回以上続く場合に診断されます。
(症状)
機能性ディスペプシアは、以下の2つのタイプに分けられます。
食後愁訴症候群:食後に胃が膨らんだ感じや、少量の食事でお腹がいっぱいになる感覚を訴えるタイプ
心窩部痛症候群:食事の前後に関係なく、みぞおちの痛みや灼熱感を感じるタイプ
(対応方法)
治療としては、まず腸管の運動を改善する薬や酸分泌を抑える薬が使われます。加えて、食事療法も重要です。具体的には、高脂肪食品、カフェイン、香辛料、炭酸飲料、そしてガムなどの摂取を避けることが効果的です。
また、機能性ディスペプシアの症状は、心理的・社会的な要因によって悪化することがあります。そのため、心理的ケアや生活環境の見直しも治療に役立ちます。
片頭痛
片頭痛は、血管の拡張に伴って発生する拍動性の頭痛で、発作的に現れます。頭痛は体を動かすと悪化する特徴があり、寝すぎることで生じることもあります。
(症状)
片頭痛は、前側頭部に感じる拍動性の頭痛で、通常の動作でも悪化し、1~72時間続くことがあります。発作中には、悪心や嘔吐を伴うことがあり、また光や音に過敏になることがよく見られます。子どもは、「顔色が悪くなり寝込む」「自分で電気を消して暗い静かな部屋に横になる」「好きなゲームもしなくなる」など、強い頭痛のために活動が制限されることがあります。
片頭痛の前兆として、キラキラした光が見えたり、視力が一時的に低下したり、「物が大きく見える、小さく見える、ゆがんで見える、モザイクのように見える」などの視覚症状が現れることもあります。
(対応方法)
片頭痛を予防・軽減するためには、睡眠リズムの調整や適度な運動が効果的です。治療薬としては、イブプロフェンやアセトアミノフェンが小児には有効な場合が多いです。ただし、これらの薬を週2~3回以上、または月10回以上使用する場合、「薬物乱用頭痛」が懸念されるため、適切に使うことが重要です。大人に使われるトリプタン製剤は、現在のところ小児には適応されていません。
緊張型頭痛
緊張型頭痛は、「頭が締め付けられるような痛み」や「頭が重たい感じ」と表現され、慢性的で拍動性がなく、身体を動かしても痛みが変化しないのが特徴です。また、心身の緊張に伴う頭痛で、肩こりを合併することも多く、寝不足などが原因で発症しやすくなります。
(症状)
圧迫感や締め付け感のある頭痛が、30分から7日間続くことがあります。片頭痛と異なり、日常的な動作によって痛みが悪化することはなく、悪心や嘔吐、光過敏や音過敏などの症状もほとんどありません。
(対応方法)
緊張型頭痛の改善には、睡眠リズムを整え、適度な運動を取り入れることが有効です。一般的に、薬物療法は緊張型頭痛にはあまり効果がありません。
また、連日頭痛を訴える子どもの中には、起立性調節障害を合併している場合があり、その症状が頭痛の原因となっていることがあるため、しっかりと鑑別診断が必要です。さらに、心理・社会的な要因が頭痛に影響を与えていることも多いため、心理的ケアや環境調整が重要です。
睡眠障害
赤ちゃんの睡眠は、成長とともに大きく変化していきます。出生直後は、昼夜の区別なく短い睡眠と覚醒を繰り返しますが、生後4か月頃には24時間の睡眠リズムが整い始め、1歳以降には昼夜の明確な睡眠・覚醒リズムが確立されます。
幼児期になると家庭ごとの生活スタイルに左右される部分もありますが、一般的に日本人は子どもも大人も世界的に見て1~2時間ほど睡眠時間が短いとされています。もし、子どもが日中に居眠りをしてしまう、あるいはイライラして落ち着かないといった症状が見られる場合、睡眠不足が原因の一つとして考える必要あります。
(症状)
子どもの睡眠障害は主に次の3つの状況に分けられます。
- 寝ようとしているが寝られない(入眠障害)
- 睡眠の質が悪く、早く寝ても朝起きられない(睡眠維持困難)
- そもそも寝ようと思わないため、睡眠リズムが整わない(不規則な生活リズム)
(対応方法)
まずは睡眠の問題を詳細に確認し、起立性調節障害、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、睡眠相後退症候群などの特定の治療が可能な疾患であるかを確認します。それ以外の原因が考えられる場合、次のような生活習慣を整えることが勧められます。
- 朝、日光を浴びる
- 朝、しっかり朝食を摂る
- 昼間、しっかり体を動かす
- 夜、暗くして寝る
また、心理・社会的な要因も影響することが多いため、心理的ケアや環境調整も重要です。感覚過敏や強い不安が原因で入眠困難が見られる場合には、薬物療法が有効なこともあります。
子どものすこやかな眠りのための総合情報サイト 参照
https://nobelpark.jp/contents/kodomononemuri/